はじめに
みなさんは「特発性拡張型心筋症(とくはつせい かくちょうがた しんきんしょう」という病名を聞いたことがありますでしょうか?
私は20代後半に特発性拡張型心筋症と診断されました。この記事の執筆時現在は30代後半のアラフォーですので、病歴は約9年になります。
私が診断を受けた頃は医療サイドからの情報はネットに溢れていましたが、患者サイドの情報が少ない状況でした。特に、20代で発症する患者さんは珍しく、実際の特発性拡張型心筋症の患者さんはどのような生活を送っているんだろう?という情報にはなかなか辿り着けずにいました。
そこで今回は、私の経験も踏まえながら拡張型心筋症という難病について紹介していきたいと思います。
※ここで注意※
- 特発性拡張型心筋症は、現代の医学でも原因が特定できていない、まだまだ解明が必要な病気です。研究により、数値や有力なエビデンス(証拠)が変わる可能性があります。
- 私自身の症状や認識が必ずしも他の特発性拡張型心筋症の患者のみなさんと共通するとも限りません。
- 私は医学の専門家ではありません。あくまで一患者の一般的な範囲で収集した知識と経験談としてお受け止めください。
特発性拡張型心筋症の原因は何?
「特発性○○」とは、「原因不明の○○」という意味です。
特発性拡張型心筋症は心臓病の一種です。
ひらたく言うと、原因不明で心臓がどんどん大きくなってしまう心臓の筋肉の病気です。
よく「突発性」と間違われますが、突発性難聴のように、突然発症するようなものではありません。また、特発性拡張型心筋症は特定疾患に該当する難病です。(指定難病57)
10万人中14人(ということは、1万に1人か2人?)が特発性拡張型心筋症と診断され、60歳前後の患者さんが最も多いそうです。
沖縄県那覇市の人口が約32万人なので、那覇市内に45名ほどいるかどうか、といったところでしょうか。60歳前後の患者さんが多いと書きましたが、私のように20代で発症する人もいますし、お子様からご高齢の方まで幅広く発症する病気です。
心臓が膨らみ続けるとどうなるの!? 特発性拡張型心筋症の予後について
筋肉は大きくなるほどパワフルに成長していきますよね?では、心臓はどうでしょう?実はその逆で、心臓が大きくなるほど心臓のポンプの力は弱くなっていきます。
例えば、水の入ったゴム風船を想像してみてください。
同じ水の量が入ったゴム風船が2つあるとします。
一つは厚いゴムで出来ていて、中の水をしっかりとまん丸の球状に包み込みます。
もう一つは、ゴムが薄く、水の重みと重力に負けて下に伸びてしまいます。
この、薄く伸びたゴム風船に近いのが、特発性拡張型心筋症の患者さんの心臓の状態です。
実際、正常な心臓はラグビーボールのような形状で拳1個ぶんくらいの形状ですが、特発性拡張型心筋症の患者さんの心臓はサッカーボールのようにパンパンで拳1.5〜2個ぶんくらいに膨らんでいます。そして、そのぶん、全身に血液を送るポンプの機能が弱まります。
では、このまま心臓が拡張を続けるとどうなっていくのでしょうか?
NYHA分類という、活動度制限の分類に使う表がありますので、その表から抜粋して簡単にお伝えいたしますと…
- 身体活動に制限は無いレベル。疲労・動悸・呼吸困難・失神または胸痛もなし。
- 軽〜中等度の活動制限レベル。安静時・軽労作時には無症状だが、階段昇降・坂道歩行などの強い労作で疲労・動悸・呼吸困難・失神または胸痛を起こす。
- 高度の活動制限レベル。平地歩行などの軽労作で疲労・動悸・呼吸困難・失神または胸痛を起こす。
- いかなる身体活動も制限されるレベル。安静時でも心不全症状や胸痛が起こる。ちょっとでも動くと悪化する可能性がる。
…となっております。
つまり、最初は普通の状態から進行していき、最終的には寝たきりになってしまうという病気です。私は診断を受けた20代後半の頃のレベルは1で、9年ほど経って現在、2と3の間といったところでしょうか。(私個人の感覚です)
特発性拡張型心筋症は予後不良の病気です。悪化することはあっても回復することはありません。この病気の根本的な解決は心臓移植しかありません。実際、日本の心臓移植の患者さんの約80%が特発性拡張型心筋症の患者さんなのだそうです。
そういえば時折「○○ちゃんに心臓移植を!」みたいな感じで寄付金を募っている様子を見かけますね。ああいった感じで心臓移植を待っている患者さんも、調べてみたら特発性拡張型心筋症だったりして、何とも言えない気持ちになったりします。無事回復して欲しいと願う一方で、未来ある齢(よわい)1ケタの○○ちゃんには寄付金が集まるけれども、齢40近いおじさんには寄付金が集まるだろうか、とか。実際、数で言うと60代の患者さんの方が心臓移植を待っている人が多いんだろうな、とか。命なんで、どっちが救われるべきとかどっちが正しいとか無いと思いますし、私自身としては今のところ心臓移植は考えていないんですけどね。心臓移植という言葉を目にする度に、言葉では言い表しきれない複雑な感情の何かを感じてしまうこの頃です。
心臓移植手術については、また追々、記事にできたらいいなと思います。
特発性拡張型心筋症患者の5年生存率は76%で、主な死因は心不全と不整脈です。つまり、ある日突然心臓が止まってバタンキュー(昭和w)と逝っちゃう。といった感じですかね。
なんというか、この5年生存率というのがまた。低いとも高いとも言えない絶妙な数値なんですよねぇ。
何もできることはないの? 特発性拡張型心筋症の治療について
ここまでのお話で、特発性拡張型心筋症は予後不良。
根本治療は心臓移植だけ、とお伝えしてきました。
では、ただ病気の悪化を待つより他に道はないのか?というと、そうでもありません。
いくつかの方法でこの病気の進行を遅らせることができます。
具体的な方法としては、以下のものが挙げられます。
- 心臓の休息 … なるべく心臓を休める生活をします。無理な運動や過度なストレスは禁物です。
- 薬物療法 … 血圧を下げる薬や利尿剤、自律神経をコントロールする薬、心臓の負担を和らげる薬などを飲んで、心臓や血管を守っていきます。
- 塩分制限 … 病気の重症度にもよりますが、心臓の負担軽減のために塩分摂取量を1日5gを目安に生活したりします。
- 水分制限 … これも病気の重症度にもよりますが、1日2L以内を目安に水分制限を行ったりします。
つまり、薬の服用と日常生活に気を使うことで、病気の進行を遅らせていくことが、私たちのこの病気への勝ち方なのだと思います。
絶望ばかりだけど、絶望ばかりでもない
以上のように、特発性格症型心筋症についてまとめると
- 10万人に14人の難病。
- 予後不良(悪化しても回復はしない)
- 最悪、寝たきり。
- あるいは突然死。
- 根本治療は心臓移植のみ(現実問題、ほぼ無理)
- 5年生存率76%
などなど、私のように20代そこらで病名をいただいてしまったような患者さんが知ったとしたら、あまりにもヘビーな情報がてんこ盛りで。もう、絶望ですよね。
ですが、絶望ばかりでもありません。
希望を捨てるにはもったいない情報がいくつかあるのです。
ここ数年の間にも、医療は目覚ましい進歩を遂げてきました。
例えば、10年以上前の特発性拡張型心筋症患者の5年生存率は50%程度と言われていました。現在の5年生存率は76%なので、26%も改善しています。実際、私も5年以上は生きていて、そろそろ10年目を迎えるところですし。この数年の間にも新しい薬や治療法が編み出され、より長い期間、薬物治療で病気の進行を食い止められるようになりました。
また、IPS細胞や臓器の3Dプリント技術なども、心臓移植に代わる治療法として注目されているところです。
もしあなたが、今すぐにでも心臓移植が必要な体というわけでなく、心臓移植以外の可能性に期待しているのでしたら、希望はまだまだゼロではありません。
まずは生き延びましょう。
そして、これらの新技術が確立した世界で、治療を受ける望みを持つことも全然アリだと私は思うのです。
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【参考資料】