【告知】「てぃーだのひかり」 in 浦添市美術館
「てぃーだのひかり」開催のお知らせ
2022年12月2日(金)から2022年12月11日(日)の間、浦添市美術館にて大平特別支援学校児童生徒作品展「てぃーだのひかり」が開催されます。
私も、縁あってこのイベントに少しばかり関わらせていただけることになりました。
そこで今回は、この「てぃーだのひかり」のイベント内容について触れながら、大平特別支援学校のことや障害者芸術についても紹介していきながら、「障がい者芸術」や従来の「芸術」について私なりに思うことについても書き連ねてみたいと思います。
イベント名「てぃーだのひかり」について
「てぃーだのひかり」ってなんだろう?と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
「てぃーだ」は沖縄の方言で「太陽」の意味。つまり、「てぃーだのひかり」とは「太陽の光」ということです。
これは、福祉教育の父と呼ばれる糸賀一雄氏が残した「この子らを 世の光に」という言葉に着想を得て付けられたタイトルで、「大平特別支援学校の児童生徒が放つ命の輝き」や、「大平特別支援学校の児童生徒が作り出す作品の独創性や存在感」を表しています。
大平特別支援学校について
大平特別支援学校は、県内初の知的教育障害養護学校として昭和39年(1965年)に創立されました。現在は、小学部・中学部・高等部があり、互いに愛の絆をしっかりと結び、共に汗して励もうという「愛汗(あいかん)」の精神を校訓とし、児童生徒の自立と社会参加、社会に貢献できる人を目指し日々学習に取り組んでいます。
特別支援学校に通う児童生徒には、いくつかの障がいがあります。
障害には、例えば以下のようなものがあります。
このように、特別支援学校に通う児童生徒の障害はさまざまであり、児童生徒それぞれの障害の種類や重さによっても、得意・不得意や向き合うべき困難などが違ってきます。
特別支援学校の児童生徒は、授業や作品制作の取り組み方を通して、自主性や社会との共存の仕方を学んでいくのでしょうね。
そのような障害のある人による芸術とは、どんなものがあるのでしょう?
彼らは、何を見つめ、何と向き合い、何を大切に思い、どんな「好き」を「かたち」にしていくのでしょうか?
障害者芸術というジャンルの存在について
一般的に「芸術」というと、どうも堅苦しいというか、敷居が高いというイメージを持ってしまう人は多いのではないでしょうか。私も実はその一人です。
「芸術」とは、一流の美術大学を出て芸術の知識や技術を磨いた画家さんたちが生み出されるものであり、鑑賞する側にもそれなりの知識を求められるもの、という気がして、どこか遠くの存在として感じていました。
しかし、一方で「美術教育を受けていない者による芸術」というジャンルも存在します。近年ではそれを「アール・ブリュット」とか「アウトサイダー・アート」と呼ぶそうです。その中でも障害者による芸術作品や障がい者芸術というものを捉え直そうという運動を「エイブル・アート」と呼ぶそうです。(私は今回の活動を機にこれらの言葉を知りました。)
用語はさておき、障害者芸術、エイブル・アート、アール・ブリュット、アウトサイダー・アートなどと呼ばれるものは、(長いので今後はエイブル・アートでまとめますね。)いわゆるこれまでのステレオタイプな「芸術」とは別物と考えていいでしょう。
エイブル・アートの作り手は、おそらく私たちと何ら変わらない心を持ち、私たちと同じ文化や社会に身を置き、私たちと同じようにそれを見つめている人たちです。つまり、「ごくごく一般的な人がごくごく一般的な私たちのために語りかけてくれるアート」だと私は考えています。
エイブル・アートの運動にも、これまで価値の低いものと見られていた障害者芸術の地位向上と、誰も疎外されたり排斥されない社会の実現という2つの目的があるそうです。
その2つの目的について考えた時に、私の中で「障害者芸術」だけを崇拝するのも違う気がするし、これまでの格式高い「芸術」が正義と断定するのも違うなという気がしてきました。
じゃあ、どうすれば誰も疎外せず、「障害者芸術」も従来の「芸術」も下に見ずに捉えることができるだろうか?
それを解く鍵はとあるアニメ作品にありました(笑)
少々脱線にはなりますが、気になる方は事項をご参照ください。
とあるアニメ作品が教えてくれたこと
私の好きなアニメ作品に「とある科学の超電磁砲(レールガン)」というものがあります。
科学と人間の能力開発が進歩した「学園都市」という都市が舞台のお話で、そこに通う生徒たちは概ね超能力を使えます。中でも、主人公の御坂美琴(みさかみこと)は、一握りの人間しか到達できない「LEVEL 5」の能力保持者で、指先から弾くコインを帯電させ、超電磁砲(レールガン)として放つことができるスゴ技の持ち主です。
このアニメの根幹を成す概念として、「自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」と呼ばれるものがあります。超能力者たちは皆、それぞれにそれぞれの「自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」を持っているということです。
どういうことかと言いますと、普通の人は「指先から超電磁砲なんか放てるわけがない」と思っています。だから、超電磁砲は打てません。しかし、LEVEL 5 の御坂美琴は「指先から超電磁砲は打てる」と思っています。そしてそれを、ずば抜けた知識と努力、創造力によって実現してしまった。…とまぁ、かいつまんで話すとそういうことです。
つまり、
その人だけが認識できる現実があるから、「かたち」にできる。
逆を言うと、
その人だけの現実は、その人にしか「かたち」にできない。ということですね。
気になる方は、アニメ作品や原作のラノベなどをご覧になってみてください。
もちろん、これはアニメ作品のお話ですので、私だって「できると思えば誰だって超電磁砲を放てる!」なんてことを考えているわけではございません。ですが。この「私だけの現実(パーソナルリアリティ)」という概念が、私の中で「障害者芸術」を捉え直すいいヒントになりました。
「てぃーだのひかり」を通して私が伝わるといいなと思うこと
エイブルアートは、いわゆる美術のプロが作る芸術ではありません。
雑な言い方かもしれませんが、私たちと同じ一般人が作る芸術です。
そんなの陳腐で何も面白くないじゃないの、という声が聞こえてきそうですがお待ちください。そこに先ほど私が述べた「私だけの現実(パーソナルリアリティ)」の概念を少しだけ持ち込んでみてほしいのです。
例えば、私のような一般的で陳腐な人間が「りんご」を題材に作品を作れと言われた場合、おそらく普通に見たままのりんごを模写するか、写真に収めてしまうと思うのです。たぶん、私がりんごの作品を作った場合、皆さんが知っている形の丸いりんごが、赤い色をしてそっとテーブルに佇んでいる感じで出来上がります。それこそ陳腐で本当にありがとうございましたといった感じです。
しかし、同じ時代に生き、同じものを見た障害者の皆さんが作り出す作品はどうでしょう?私と同じようなりんごが生まれるでしょうか?たぶん生まれません。
彼らの持つ、障害の種類や重さ、作品への愛情、向き合い方によって、認識できるものや実現できる色や形が変わってくるでしょう。それはもう、同じ空間を見つめていても私たちがどう足掻いても獲得することのできない、その障がい者の方だけの特別な「私だけの現実(パーソナルリアリティ)」だと思うのです。
そこから生まれた「りんご」は、私たちが見た時に、「どうしてそうなった(笑)」と思わず笑が込み上げてくるものかもしれませんし、現実にはあり得ないくらい色彩豊かで美しいかもしれません。もしかしたら、彼らの「りんご」を私たちは「りんご」と認識できるかもしれないし、「何かわからないけど素敵な何か」という認識として持ち帰ることになるかもしれません。
いずれにせよ、ただ一つ言えることは、それはきっと「面白い」ということです。
目の前の児童生徒の作品がもし、私たちの好きなものや知っているものについて描かれていて、それがもし、私たちが生み出せない形や想像もしない色を放っていたとしたら、それは「面白い」のではないでしょうか?
そして、私たちが面白いと感じたその時、特別支援学校の児童生徒の「好き」や作品と向き合うために要した努力や困難が、より強く光を放ち始める気がするのです。
私は今回、このイベント内で使用される「いろのうた」という曲のミュージックビデオ制作という形で関わらせていただきました。当日、会場で「いろのうた」が流れる際に私の映像も上映される予定です。児童生徒の皆さんや、来場者の皆さんに足をとめて楽しんでいただけましたら幸いです。
障害者も健常者も、芸術家もそうでない方々の芸術も、 等しく尊い世の中でありますように。そしてもっとお互いをよく知る機会が増えて理解し合える世の中に向かって行けますように。「てぃーだのひかり」をきっかけに、沖縄のエイブルアートや障害者への理解が深まるといいですね。
障害者としても健常者としても、おそらく半端者の私ですが、どちらにも属せない半端者も疎外されない世の中になればいいなと願いを込めて、私も会場を訪れてみたいと思います。彼らの放つ光はどんなものか。皆さまにも足を運んで確かめに行っていただけましたら幸いです。
【イベント情報】
大平特別支援学校児童生徒作品展
「てぃーだのひかり」
→入場無料です←
開催場所:浦添市美術館
開催期間:2022年12月2日(金)〜2022年12月11日(日)
開催時間:9:30〜17:00
※金曜日は午前7時まで開催
※入館は閉館の30分前まで
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